「メノポハンド」を知っていますか。女性に多い手指の痛みやしびれには予防対策があります
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手指の痛みや変形は「老化のせい」ではありません
ヘバーデン結節(関節症)など、手指の関節の痛みやこわばりから変形に至る症状は、更年期以降に多いことが知られていました。今、これらの症状にはエストロゲンの減少が関係することが分かっており、世界では「メノポーザルハンド」として知られています。また、日本手外科学会では新たに「メノポハンド」として、予防や改善について啓蒙を行っています。
これらの症状に詳しく、「手の外科」外来を行う平瀬雄一先生(四谷メディカルキューブ)にお話を伺いました。
監修 平瀬雄一(ひらせゆういち)先生
四谷メディカルキューブ手の外科・マイクロサージャリーセンター長。1982年東京慈恵会医科大学卒業・米国サンフランシスコヘ留学。米国デービスメディカルセンター客員教授、慈恵医大柏病院形成外科診療医長、埼玉成恵会病院形成外科部長(埼玉手の外科研究所)を経て、2010年現職。日本手外科学会理事、日本手の外科学会認定専門医、日本形成外科学会認定専門医ほか役職多数。
四谷メディカルキューブ https://www.mcube.jp/
同院手の外科.com にリンク 手の外科
エストロゲンのゆらぎが、なぜ手指の関節を壊すの
「朝起きたとき、手がこわばって握れない」「指が腫れて痛み、ぞうきんが絞れない」 「ビンのふたが開けられない」「関節が太くなり、変形してしまった」
当協会が女性の健康電話相談を始めた25年前から、こうした手指の腫れや痛み、しびれ、関節の変形についての悩みは、数多く寄せられてきました。
リウマチ検査を受けたり整形外科でレントゲンを撮っても異常が見つからず、「歳のせいだからしかたない」「あまり使わないようにして」などと言われて治療方法も見つからないという声も多かったのです。
当時は、更年期や女性ホルモン(エストロゲン)の変動と、これらの手の症状との関係はほとんど知られていなかったと言えます。
現在では、子宮内膜や乳腺、骨、皮膚、血管などにもあるエストロゲン受容体が、手指の関節や腱の周囲にある「滑膜」に非常に多いことが分かってきました。
平瀬先生は
「エストロゲンは手指の血管を拡張して血流をよくし、関節の「滑膜」を柔軟に保って腱や腱鞘を保護しています。そこで、エストロゲンが急激に減少すると、腱や関節が腫れて痛み、動かしにくくなり、こわばるのです」
といいます。
<関節内部のようす>
産後、授乳期の手指の痛みもエストロゲンの低下が原因
エストロゲンの急激な減少が起こるのは、更年期だけではありません。たとえば産後の授乳期には、妊娠中に高かったエストロゲン値が急激に元に戻ります。このため、手指の痛みやこわばりは、更年期だけでなく、産後の授乳期などにも起こります。
産後、手の指や手首が痛くて赤ちゃんのケアがつらいという経験をされた方も多いのではないでしょうか。こうした産後のエストロゲン減少はやがて落ち着きますが、更年期ではエストロゲンのない状態が長く続きます。
このため、加齢とともにしだいに滑膜の炎症がひどくなり、やがて変形を引き起こします。平瀬先生によれば、更年期の手指の痛みは、放っておくと7~10年で指の変形に進行する可能性があります。
まるで「毎日降り積もる雪が、やがて屋根を押しつぶしてしまうように」と、症状の進行を平瀬先生は表現します。
「ほんの小雪でも、降り続いて前の日の雪が溶けないでいると、降り積もり、やがて屋根が壊れてしまいます。そこで、屋根がきしみだす前に、雪を溶かしていくような治療やケアを行うことがとても重要です」(平瀬先生)
<エストロゲンの変動に伴って起こる女性の手指の病気>
・ばね指 母指、中指、薬指に多く、指の曲げ伸ばしで「パチン」とひっかかる
・ヘバーデン結節 指の第1関節に腫れと痛みが起きてやがて変形する
・ブシャール結節 指の第2関節に腫れと痛みが起きてやがて変形する
・手根管症候群 親指から中指までの正中神経が圧迫され、しびれが生じる
・母指CM関節症 母指の根元が痛くて、ペットボトルのふたが開けられない
・ドケルバン病 手首の母指側が腫れて痛む
「メノポハンド」かな?と思ったら
こうした手指の症状を感じたとき、どのような対処法があるのでしょうか。
まず、更年期障害・症状の第一選択薬といえるHRT(ホルモン補充療法)の効果がわかっています。
ホルモン補充療法(HRT)
『 ホルモン補充療法(HRT)ガイドライン2017年度版』では次のように記述されています。
「エストラジオール(E2)はホットフラッシュ以外に睡眠障害、関節痛、四肢痛改善効果を示す。」「HRTは関節痛発症を予防する可能性がある。」(日本女性医学学会・日本産科婦人科学会)
手指の痛みはここに記載されている「関節痛」に含まれますので、実際に更年期障害の治療でHRTを行っていた方では、手指の変形が進む前であれば症状も改善されているケースがあります。
エクオール
体内でエストロゲンとよく似た作用を持つエクオールを補うことが、予防につながるというデータが出ています。エストロゲン受容体にはαとβがあり、βの受容体は骨や関節周囲の滑膜に多いとわかってきました。エクオールはβ受容体と合体しやすい性質があるため、関節の症状改善に作用すると考えられます。
平瀬先生は手外科医の立場から
「炎症や痛みが強い場合は、ステロイド注射で症状を抑えます。保存療法で治らないときは、様々な手術もあります。しかしその前に、予防が大切です。産後の授乳期に手指の痛みがあった人は、更年期にも起こる可能性は高いでしょう。また、家族性があることもわかっていますので、母親に症状のあった方はエクオールでの予防をお勧めします」
といいます。
また、睡眠中には体を動かさないので末しょうの血流が悪くなり、朝の手のこわばりが起きやすくなります。エストロゲンもエクオールも、血流に乗って手指の腱や関節に運ばれるので、血流をよくすることは大切です。
朝、体の動かす前に、ふとんの中で両手をこすり合わせ、指をゆっくりマッサージ、両手の指をグッと握ってパッと開く などの手指の体操をしてみましょう。末しょうの血行をよくし、指のこわばりをやわらげてくれます。
当協会のホームページにも、体が動かしにくいときのエクササイズを紹介しています。
手指の症状に詳しい整形外科医を探すには
手外科医とは、整形外科、形成外科専門医の中でも、手のしびれや関節の痛み、腱鞘炎など、手指の症状の治療やリハビリに詳しい専門医です。
特に更年期世代の女性では、手指に痛みやしびれがあったとき、「年のせいだからしかたない」とあきらめず、対策があることを理解することも大切です。まず、関節リウマチではないかという鑑別診断を受けること、そして、女性ホルモンとの関連などのメカニズムを知ることが、適切な治療につながっていきます。
お近くの手外科専門医を探す場合は下記を参照してください。
日本手外科学会(https://www.jssh.or.jp/)
手外科専門医名簿(https://www.jssh.or.jp/ippan/senmon/senmoni-meibo.html)