月経前(黄体期)の過ごし方を見直そう。むくみを抑えてPMS(月経前症候群)の症状を軽減
目次
更年期世代にもPMSは起こります
「この症状は、もう更年期かも?」
イライラ、精神不安定、集中力欠如、だるくて動けない…。30代後半から40代にかけてそんな症状が出ると、更年期のせいにしがちかもしれません。
イライラの原因は何か。そこで確認したいのは「毎月の月経周期はどうなっているか」という視点です。
■この記事のご監修 小川真里子先生
福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 医学部産科婦人科学講座 特任教授。日本産科婦人科学会専門医、日本女性医学学会女性ヘルスケア専門医、指導医ほか
アヴァンセレディースクリニック(東京・品川区)毎週金曜日午前 外来
PMSか更年期か、見極めのポイントは
PMS(月経前症候群)と更年期症状は、症状だけで見ていくとかなり似ているところがあります。特に40代後半になると、年齢的には更年期世代となるため、自分でもどちらか見極めがつかなくなることがあります。しかし、月経周期との関連でみると、むしろPMSと更年期症状は真逆な状況で起こるといえます。
〇月経は周期的に来ているか(YES NO)
〇症状は月経の3~10日前に重く、月経が始まると治まるか (YES NO)
この2つに「YES(はい)」ならPMSの可能性が高いといえそうです。
もちろん、自己判断するのではなく、一度は婦人科の更年期外来やPMS外来を受診してください。背後に婦人科系の病気が隠れていないかを調べることは重要ですし、PMSには 低用量ピル(OC・LEP)など処方薬による対処が有効だからです。
まず、黄体期の生活習慣を見直すことから始めましょう
PMSによる不調とわかっても、40代後半になると血栓症の発症リスクがやや増えるというデータがあり 低用量ピル は適用にならない場合もあります。また、ピルは排卵を抑制する作用を持つため、妊娠を考えている場合には使いにくいものです。
薬物療法を行うかどうかとは別に、誰でもできて有効なのは、食事や運動など生活習慣の見直しを黄体期に行うことです。下図に示すように、黄体期とは排卵から次の月経までの約2週間ぐらいをいいます。
「PMSがつらいのは月経前の数日だけなのですが…」という方も多いでしょう。この場合も、黄体期全体で食べ方を変え、運動や睡眠など生活習慣を見直すことで、血糖値の変動やむくみをコントロールしていきます。
このことが、月経前に起こるPMSの予防になるという考え方です。
「月経前だからしょうがない」の食べ方が不調を起こしているのかも
「月経前はお腹が空いてしかたがない」
「甘いお菓子や揚げ物のようなボリュームのあるものをドカ食いしたくなる」
このように、月経の前になると、普段はセーブしている甘いものや刺激物がむしょうに食べたくなることがあります。食べると、イライラが収まり落ち着いた気分になったり、元気が出たと感じることもあるでしょう。
食べると元気になれるのは、食後の血糖値が上昇するからです。
しかし、急激に上がった血糖値は、急激に下がります。(下のグラフの青い線を参照)低血糖になるとアドレナリンが放出され、イライラ、神経過敏、疲労感、集中力の欠如などが起こりやすくなります。
中でも黄体期は、女性ホルモンの変動により血糖をコントロールするインスリンの働きが抑えられ、血糖値が急激に下降・上昇しやすくなるとされています。
つまり、「月経前だからしょうがない」と甘いお菓子などを食べ過ぎるのは、むしろPMSによるイライラを起こす要因になるといえます。
とはいえ、食べたい気持ちを無理に抑えこんでいたら、よけいにイライラしてしまうでしょう。そこで、食欲を我慢するのではなく、むしろ「食べても太らない食べ方や食材を選び、よく噛んで食べる」ということを心がけましょう。
まず、食事は朝からきちんととり、1日3食をバランスよく食べるようにしてみてください。
主食には、玄米や全粒粉など精製されていない炭水化物を使い、野菜やきのこ、海藻など食物繊維の多いおかずをよく噛んでゆっくり食べます。
すると、下のグラフの赤いラインが示すように、血糖値の変動がなだらかになります。気分も安定するので、落ち着いて過ごせることになります。
<「自分にごちそう」の甘いお菓子はむしろイライラのもと>
朝、しっかり食べる効果は一日の体調にも影響します
野菜や果物、キノコ、海藻類、精製されていない穀物など、食物繊維の多い食材は血糖の上昇を抑えてくれます。そこで、朝に食物繊維の多い食事をしっかりとっておくと、午前中の気分が安定しやすくなります。
体調が悪くて1日寝ているときにも、朝はいったん起きてカーテンを開け、朝日を浴びましょう。そして、もしおなかがすいていなくても、食物繊維や、同じように血糖値を上げにくいたんぱく質がメインの朝食をとります。
あまり時間がないから菓子パンとコーヒー。というよりは、玄米おにぎりとインスタントでもわかめのみそ汁、オートミールがゆなど、オートミールがゆなど、糖質が低く食物繊維の多いものを少しでも食べておきましょう。
このほうが、昼すぎまで眠って強い空腹を感じてからドカンと食べるよりも血糖値が上がりにくく、気分にも体重にも影響しないのです。
GI値の低い食材を美味しく食べよう
GI値(グリセミックインデックス)とは、食後の血糖値の上昇スピードを示す指標です。これの低いものを食べることで、糖質として吸収されにくく、血糖値の上下動をできるだけ防いでくれます。
玄米、全粒粉のパンやパスタ、そば、オートミール、キノコ類、卵、鳥むね肉などはGI値が低い食べ物です。逆に、白米や精製した小麦のパンやパスタは高GI値の食品。一方、同じ野菜類でもイモ類はGI値が高い食材。果物を使っていても、缶詰やジャムになると高GIですから気を付けて。
ふだん食べる主食やおやつの材料を選ぶだけで、血糖値のコントロールに役立ちます。鶏むね肉やきのこ類ではボリュームもなくてつまらない……と思ったら、オリーブオイルで和えたり、炒めたりするのがおすすめ。オリーブオイルはGI値の低い油なので、血糖値を安定させつつボリュームを感じながら食べることができます。
これらの食べ方を習慣にしておけば、PMSのイライラを抑えるのによいだけではありません。40~50代に入ると起こりやすい高血糖や太りすぎ を防ぎ、生活習慣病や、肥満などに向けた対策にもつながっていくでしょう。
不要な水分の排出を促し、むくみを予防しよう
黄体期に、女性ホルモン変動プロゲステロンの影響 により起きやすい変化のもう一つは、むくみ(水分貯留)です。このむくみによる症状が、PMSによる身体症状の多くを占めることがわかっています。
<こんな不調は、むくみ(水分貯留)によるもの>
〇寝起きに顔が腫れる
〇手足がむくむ
〇頭痛
〇体重増加
〇だるさ
〇疲れやすい
月経前になると顔がむくみ、体重が1~2キロも増加するという人は「太った」のではなく「むくみ」です。これを予防することで、PMSのイライラも起きにくくなる可能性があるということです。
まずは、黄体期には体に水分をため込まないよう、塩分の強いもの、味の濃いものを控えるところからはじめましょう。塩辛い漬物はピクルスに変えるなど、お酢やスパイス、だしなどを上手に使うと、塩味が薄くてもおいしさを感じ取ることができます。
野菜や果物によく含まれるカリウムは、体のミネラルバランスを整え、摂りすぎた塩分(塩化ナトリウム)の排出を助ける働きがあります。
<カリウムが摂れる食品>
果物 アボカド、キウイ、リンゴ、バナナ、メロン、干し柿 など
野菜 ほうれん草、きゅうり、ナス、モロヘイヤ、小松菜、ブロッコリー、ニンジン、かぼちゃ など
芋類 長芋、里芋、さつまいも
豆類 納豆、小豆 アーモンド、落花生 など
※カリウムは水溶性のため、煮たりゆでたりすると水に溶け出します。そこでアボカドやリンゴなどは生のままサラダや和え物にして食べるのもいいでしょう。
生のままでは食べにくいイモ類や葉物野菜などは、みそ汁やスープ、シチューの具にして汁ごと食べると、カリウムを効率よく摂ることができます。
主食・主菜・副菜で栄養バランスがとりやすい和食メニュー
このほか、ビタミンB6、カルシウム、ビタミンDなどもPMS対策に役立つ成分とされています。
ビタミンB6 動物性、植物性のさまざまな食品に含まれる
カルシウム チーズ、ヨーグルトなどの乳製品、小魚類、青菜
ビタミンD キノコ類、サケ、イワシなどの魚類、卵黄
では、毎日の食事でこれらの栄養成分を十分に摂るにはどうしたら?
それに適しているのが、伝統的な和食のスタイルです。ご飯、みそ汁、肉や魚などの主菜、おひたしや煮物などの副菜をそろえることで、自然に栄養バランスが整います。
このとき、次の点に気をつけてみましょう。
・白米は玄米にしたり雑穀を混ぜる
・みそ汁は野菜など具だくさんにして塩分控えめにする
・野菜(食物繊維)→肉や魚(たんぱく質)→ご飯、パン(炭水化物)の順番で食べる
・よく噛んでゆっくりと食べ、野菜とたんぱく質で、ある程度お腹を満足させておく こうすることで血糖値の急激な上昇や下降を防ぐことができます。
禁煙、節酒、カフェインのとり過ぎにも気を付けて
もし喫煙していたら、ぜひ禁煙をおすすめします。
アルコールはほどほどに。ビールや日本酒、ワインなど蒸留酒は糖質を多く含むし、月経前は黄体ホルモンもエストロゲンも分泌が高まるために肝臓のアルコール代謝が遅くなります。二日酔いしやすいし、お酒の水分も体に残りやすくなります。頭痛や肩こり、だるさ、胃のむかつきの隠れた要因にもなるでしょう。
カフェインを含むコーヒーや紅茶は水分を排出する作用があるとされますが、とり過ぎはよくありません。刺激物なので睡眠の質にも影響します。
軽い運動で血糖値を下げ、肩こりやむくみの解消を
月経前の不調のときに、強い運動などしたくないのは当然です。でもまったく体を動かさないと、さらに代謝が悪くなります。散歩をするなら食後15分後くらいからがおすすめ。30分ほど歩けば、食事で取った糖質が消費されます。
つらいときはベッドで横になったまま、手足を伸ばしたり、首をまわしたりするだけでもいいのです。それだけでも日課にすることで血行がよくなり、体があたたまって水分が排出されやすく、むくみを防ぐことにつながります。
PMSや月経時の肩こりは、血行が悪いために首や肩まわりの筋肉がこっていることも影響しているかもしれません。座ったままで肩甲骨を動かす運動をするだけでも、肩や首がスッキリし痛みを和らげてくれます。
お風呂はシャワーでなく、ゆったり湯船につかることが体を温め、水圧により全身マッサージにもなります。気分が悪くて入浴も難しかったら、肩や首の後ろ、肩甲骨まわりをホットパック などで温めると背中の緊張がほぐれて楽になります。
「γ-トコトリエノール」の水分排出作用とは
むくみとPMSの症状は、相関することがわかっています。そこで婦人科でも、PMS治療に利尿剤を処方されることがあります。ただし、人によっては利尿剤を飲むことでトイレが近くなりすぎたり、のどが渇く、だるいなどの作用が起きることもあります。
そこで食事や運動の工夫以外には、水分の排出を促す働きのある成分をサプリメントなどで取る方法もあります。
大豆油やこめ油など、植物の油に多く含まれるビタミンEの一種で「γ-トコフェロール」と「γ-トコトリエノール」には、からだのナトリウム・カリウムバランスを調整して、よぶんな水分を排出する働きがあることが分かっています。
これは、ナッツ類や緑黄色野菜に多く含まれるビタミンEのα-トコフェロールとは違う性質をもつもので、「むくみ軽減」を目的とし、サプリメントなどに使用されはじめています。
では、γ-トコフェロールとγ-トコトリエノールは、なぜむくみ改善に役立つのでしょうか。
この2つはどちらも体内で「γ-CEHC」という物質に変わり、「ナトリウム利尿」作用があるとされています。体内にナトリウム量が多くなり過ぎて、水分をため込んだ「むくみ」の状態が起きたとき、腎臓で尿を増やしてナトリウムを体外に排出するというわけです。
中でも、γ-トコトリエノールは、γ-トコフェロールよりも効率良くγ -CEHCに変換されるとして注目されている成分です。
黄体期に、γ-トコトリエノール、γ-トコフェロール、エクオール、カルシウムの4つの成分をとることで、むくみ(水分貯留)を抑え、イライラや怒りやすさなどの精神症状も軽減するという研究報告が行われています。(日本女性医学学会雑誌:29(4):578-587、2022)
エクオールとPMSについて
エクオールは、体内でエストロゲンに似た働きをするということで、特に更年期の不調には役立つことがよく知られています。エクオールについてはこのホームページでも紹介しており、多くの人に読まれているページです。
エクオールについては、PMS症状との関連でも研究が進んでいます。
ー体内でエクオールをつくれる人は、PMSになるリスクが低い(出典: 産科と婦人科; 83(12): 1434-1439, 2016)「PMS/PMDDの治療法 – サプリメント」上野友美 大塚製薬株式会社佐賀栄養製品研究所ー
上記の論文では「エクオールが作れる人は月経前の肌トラブルが少ない」といった報告も行われていています。エクオールが体内にあったほうが、PMSにもいい影響が期待できるというわけです。
黄体期のセルフケアでずっと快適に過ごしましょう
ここでは、PMS症状への対策として、黄体期に起こりやすい血糖値の変動ととむくみを生活の中でどう予防・改善するか、そして、PMS対策として「γ-トコフェロール」と「γ-トコトリエノール」「エクオール」についてご紹介しました。
食事のとり方、睡眠、メンタルケアなど、セルフケアを行っている人のほうが、仕事や家事のパフォーマンスは安定しているということが、さまざまな研究で明らかになっています。PMSに限らず、月経の前も後も女性が快適に過ごせる時間を増やし、やりたいことにベストコンディションでとりくめる体調づくりをしましょう。