HRT(ホルモン補充療法)製剤の使い方。不安を解消し、効果を実感するために
HRT(ホルモン補充療法)で認められている医学的効果を実感するには、自分の体に合った使い方をすることも重要です。それには、まず薬剤の種類や特徴を知ること。このページでは、HRTについてより具体的な情報をお伝えします。
HRTの基本については、「ホルモン補充療法(HRT)」のページもご覧ください。
目次
HRTの効果~ホットフラッシュなどへの即効性から、骨量を改善・維持する長期的効果まで
HRTは、女性の更年期障害・症状の第一選択薬として世界中で長く使用され、日本でも婦人科・更年期外来で広く処方されているものです。現在、HRTによる効能が認められ健康保険が適用となる症状は次のとおりです。
・ホットフラッシュ(のぼせ、ほてり)、発汗
・性交痛、腟や外陰の粘膜萎縮を改善
・骨粗しょう症による骨量減少を抑え、骨量を改善・維持する
特に、ホットフラッシュや性交痛、腟や外陰の萎縮症状の治療にはもっとも有効で、数日の投与で効果を実感できる人も少なくありません。更年期の10年の中で「汗が止まらなくてどうしようもない」という強い症状が現れるのはだいたい2~3年ぐらいのところです。この時期にHRTを行うことで、仕事や日常生活をうまくこなしている女性もたくさんいます。
また、HRTを行っている人では次のような作用があることも認められています。
・気分の落ち込みを和らげる
・動脈硬化を抑える
・善玉コレステロールを増やし、悪玉コレステロールを減らす
・皮膚のコラーゲンやエラスチンを増やし、肌の潤いを保つ
・血圧、血糖値の変動を防ぐ
HRTを始めるにはどうしたらいいの
HRTは、一般に婦人科や更年期外来の医師が処方する薬です。飲み薬と貼り薬、塗り薬(ジェル)がありいずれも健康保険が適用になります。また、性交痛、腟や外陰の粘膜萎縮に使用される腟剤があります。
このうち、飲み薬で静脈血栓症がやや増えるという報告がありますが、貼り薬、ジェル剤など経皮薬では、薬剤が肝臓を通過しないためリスクは報告されていません。
ホットフラッシュなどの更年期症状、骨量減少や骨粗しょう症を指摘されたとき、40代未満で閉経となった場合などは、まず婦人科を受診してみてください。問診票と診察で症状を確認し、エコー検査や女性ホルモン値検査で閉経かどうかを確認し、子宮がんの検査などを行ったうえで、HRTをはじめるのが一般的です。
ただし、すでに閉経し更年期症状であることがあきらかな場合は、女性ホルモン検査の結果を待たずに初診の診察でHRTを処方することもあります。また、まだ月経がある場合も、ホルモン数値や症状をみたうえでHRTを始めることもあります。
とにかく症状がつらいときは、がまんしないで医師に相談してみてください。
いつまで続ければいいのか
「始めてみたいけれど、ずっと続けなければいけないの?」という疑問を持つ人もいると思います。
いつやめてもいいのですが、ホットフラッシュのような強い症状のあるうちは、HRTをやめると症状がぶり返します。HRTをやめても症状がぶり返さなくなったら、「更年期は卒業かな」と考えることもできます。
HRTの使い方は、エストロゲンと黄体ホルモンの併用療法がベース
HRTの特徴は、「子宮のある女性」と「手術などで摘出し子宮のない女性」で処方のしかたが違うところです。
子宮のある方では、エストロゲンとともに黄体ホルモン(プロゲステロン)が処方されます。これは、エストロゲンのみを長期間(少なくとも半年以上)使用すると、子宮内膜が増殖して子宮体がんのリスクが高まるためです。そこで持続的あるいは定期的に黄体ホルモンを使い、子宮内膜の増殖を抑えるか月経のような出血を起こして子宮内膜をきれいにおそうじするのです。
この出血を「消退出血」といいます。
「周期的併用療法」では、黄体ホルモンを月のうち10 日~ 12 日使い、それを飲み終わった直後から月経のような出血が1 週間くらい見られます。
このとき、月経が起こるときのような腹痛やおなかのはり、月経前のような体のむくみが、同時に見られることもあります。
子宮を摘出後の人は、エストロゲンのみのHRTを行う
一方、子宮筋腫などの治療で子宮を全摘出した女性では、子宮体がんのリスクを考える必要がありません。そこで、エストロゲンのみの単独投与が行われます。子宮がないので、もちろん出血は起こりません。
HRTによる出血が気になる人は
HRTを始めたときの不安として多いのは、出血についてかもしれません。出血は副作用といわれますが、今言ったように子宮がある女性ではHRTを行なった時に、出血があるのはよくあることなのです。
一般に、エストロゲンと黄体ホルモンを毎日使用する「持続的併用療法」では、出血は起こらないとされています。しかし、開始して半年くらいは出血が起こる人は多いので、あせらずにようすをみましょう。
どうしても出血やおなかの張りが気になるときは、受診時に医師に話して、薬剤を半分に減らす、2日に一度の処方を3日に一度にする、などの対処を相談してみてください。自分で勝手に減らしてしまうと、効果がみられなくなることもあるので、医師との共通理解を得ることは大切です。
HRTとがんのリスク
<子宮体がん>黄体ホルモンを併用して行うHRTでは、むしろ子宮をおそうじする作用があるので、子宮体がんのリスクを減らします。
<乳がん>アメリカでの大規模臨床試験で「5年以上のHRTでは乳がんのリスクが上がる」との報告が2002年にありました。この臨床試験そのものの問題点もいくつか言われていますが、重要なことは「5年以内のHRTでは、乳がんのリスクは上がっていない」ということです。
<大腸がん>HRTによってリスクが下がることが分かっています。
また、子宮筋腫や子宮内膜症があるときのHRTは、投与量などに工夫が必要です。できるだけ更年期医療の専門医を受診し、自分の状態にあったHRTを受けてください。
HRTができない人は
現在、子宮体がん、乳がんのある人、それらの治療を受けている人、その疑いのある人はHRTを行うことはできません。
このほか、次のような人は医師に相談してください。
・血栓性の病気にかかっている
・肝障害がある
・高血圧や糖尿病がある
・妊娠中、授乳中である